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東京地方裁判所 昭和31年(行)1号 判決

原告 国

被告 中央労働委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告指定代理人は、

「被告が昭和三〇年不再第一一号不当労働行為再審査申立事件について、昭和三〇年一一月三〇日附でした命令を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」

との判決を求め、

被告指定代理人は、

「主文同旨の判決」

を求めた

第二請求の原因および答弁

(請求原因)

(一)  訴外門脇志郎は、昭和二三年五月二七日原告に駐留軍労務者として雇用され、爾来駐留軍鳥取県美保空軍基地に充電工、人夫監督、消防士等として勤務していた。

原告は昭和二九年七月三〇日右訴外人を解雇したところ、同人の所属する全駐留軍労働組合鳥取地方本部は、同年九月四日右解雇は労働組合法第七条第一号の規定に違反する不当労働行為であるとして鳥取県知事を相手方として同県地方労働委員会に救済の申立をした。

同委員会は、昭和三〇年五月四日前記解雇は門脇の正当な組合活動を理由としてなされた不当労働行為であると認定して、「鳥取県知事は、門脇志郎に対する昭和二九年七月三〇日附解雇の意思表示を取り消し、同人を原職に復帰せしめ、かつ、解雇の日から復職に至るまでの期間同人が受ける筈であつた給料その他の諸給与を支払わねばならない」との救済命令を発したので、同知事は、同月一九日に被告委員会に再審査の申立をし昭和三〇年中労委不再第一一号事件として係属したが、被告委員会は同年一一月三日附で右再審査の申立を棄却する旨の命令をし、その命令書写は同年一二月一〇日同知事あて送達された。

(二)  しかしながら門脇に対する解雇は、日本国政府と米合衆国政府との間に締結された「日本人及ビソノ他ノ日本在住者ノ役務ニ対スル基本契約」第七条およびその附属協定第六九号に基き、駐留軍の保安上の利益を保護するため、同号第一条A項第三号(その内容は、別紙被告委員会の命令書第三項記載のとおり。ただし、A側とあるは、米国側の意。)に該当すると信ずるに足りる十分な理由があるため解雇したもので、同訴外人の組合活動を理由とするものではない。

従つて、右解雇を不当労働行為として、原職復帰、賃金の遡及支払等を命じた鳥取県地方労働委員会の命令を支持した請求の趣旨記載の被告委員会の命令は違法であるから、その取消を求める。

(答弁)

原告請求原因事実のうち(一)の事実を認める。

しかしながら、別紙命令書記載の事実があり、かかる事実から観れば、本件解雇は、門脇志郎の正当な組合活動を理由とする解雇であり、保安上の理由は、この解雇を正当化するためにとられた口実に過ぎないと認めるのが相当であるから、被告の命令は違法でない。

第三被告の答弁に対する原告の主張等

(一)  別紙命令書理由の一から四までに認定されている事実は認める。

(二)  しかし、被告は、右一から四までに記載の門脇の組合活動を直ちに本件解雇に結びつけ、これを不当労働行為と速断しているが、かかる判断は誤りである。

すなはち、美保空軍基地における保安解雇は昭和二九年五月四日保安基準該当者八名に対する出勤停止措置を第一次として同月二一日に五名、同月二八日に四名、翌月一五日に門脇志郎一名と四次に亘つて行われたものであるが、同人は同年七月三〇日第二次、第三次出勤停止者と共に解雇されたものである。

右のような四次に亘る保安上の措置は本来第一次の措置をとつた当時に同時になされる筈であつたが、軍側において該当事実の判断を慎重にするため、当初予定された第一次の期日に全員に対してこの措置をとることをせず、更に慎重な調査、検討の結果、保安基準に該当することが明確になつて、動かし得ないと認めた者から順次その手続を進めた結果、前記の如き四次に亘る出勤停止の措置となつたものであつて、門脇志郎が保安基準に該当する解雇予定者であることは、第一次措置をとつた同年五月四日当時既に確定していたが、同人の組合における地位が重要であつたので、特に慎重な調査と検討とを重ねた結果、保安上の理由があることが確定的となつたため、やむなく出勤停止措置がとられたに過ぎず、右調査のため日時を要し、門脇が第三次までの保安解雇反対闘争を積極的に行つている時期に同人の出勤停止の措置をとらなければならない結果となつたが以上の経過から見て、門脇の組合活動は、右出勤停止と何等関連がないことは明白であつて、同人が保安基準に該当するかどうかの調査および検討に際しては、同人の組合活動を顧慮したことはなかつたのである。

しかも、門脇が保安基準に該当するとの判断は、駐留軍当局の周密な調査によるものであり、鳥取県地方事務所長も独自の立場から、各種の調査を実施し、これに基いて軍当局と折衝したが、保安上の理由から、これら労務者を引き続き基地に就労させることは、軍にとつて不利益であるとの軍の判断を覆えすことができなかつたし、また訴願手続による審査、政府機関と米極東空軍当局との折衝も同様であつたので、門脇が保安基準に該当する点については日本政府としても確信しているところである。

従つて、本件解雇は、門脇の組合活動の故になされたものでなく、全く軍の保安上の理由のみによつて行われたものである。

(三)  更に被告委員会の命令は、門脇の解雇理由が明示されないことをもつて、不当労働行為認定の一資料となるかの如く判断している点も違法である。

すなわち、駐留軍は、高度の機密保持を必要とし、そのため附属協定第六九号に定める保安基準に該当するかどうかの判断はもつぱら米軍の主観的判断にゆだねられ、日本政府は、この軍の判断に拘束され、たとえ当該労務者に保安基準に該当する客観的事実がなかつたとしても、同労務者に対しては当然解雇手続をとる外に途がなく、しかも軍はかかる保安理由によるときは、その判断の根拠を明らかにする必要はないものとされている。

従つて、本件解雇の理由を明らかにし得ないことをもつて、ただちに保安上の理由がないものとすることは早計である。

しかも前記四次にわたる保安解雇者のうち門脇一人だけが前記附属協定第一条A項第三号にあたることを明示されているので、同人の解雇理由はむしろ具体的に示されているというべきである。

(四)  仮に門脇に保安基準に該当する事実がなかつたとしても、原告としては、門脇にかかる事実ありとする軍の判断に拘束され当然同人に対する解雇措置をとるほかないのであるから、同人に対する解雇は、保安上の理由のみによりなされたもので、同人の組合活動を理由とするものでないから、不当労働行為と称し得ないものである。

第四立証〈省略〉

理由

一  原告の請求原因のうち(一)の事実は当事者間争ない。

二  門脇志郎の組合経歴・組合活動

被告の命令書一から四までの事実は、当事者間争ないから、結論的には「門脇志郎は、昭和二二年二月美保進駐軍労働組合創立以来の組合員であり、昭和二三年三月右組合長兼進駐軍労働組合鳥取県連合会長となつた後、鳥取県における駐留軍労務者の労働組合運動の指導的人物として活溌な組合活動を行つて来たもの」で、この事実は、基地の米軍において知るところであつたと認定すべきものである。

三  門脇に対する出勤停止がなされた状況

(一)  次に当事者間争ない別紙命令書二、三の事実から、門脇が昭和二九年六月一五日保安上の理由により、出勤を停止されるに至つた状況を見ると(イ)同年五月始め頃地区本部定期大会において不当解雇反対の闘争方針が決議され、次いで同月四日、同月二一日および同月二八日の三回にわたつて同基地労務者合計一七名に対して保安上の理由による出勤停止が行われ、(ロ)門脇は、全駐労鳥取地区本部の執行委員長として同月四日および二一日同基地労務士官シャツクリー中尉、O・S・I(Office of special investigation)の隊長に対し、前記保安上の措置の具体的理由の説明を求め、かつ、鳥取地区における保安解雇が全国的に見て多すぎることの申入をし、五月二八日行われた第三次出勤停止の翌日緊急地区委員会を開催し、闘争方針(成立に争ない乙第一号証の二によれば右方針とは、出勤停止者のうち組合の調査により非該当と判定された者の復職を目的として強力に闘争することであり、同日の委員会においてそのための団体交渉、坐り込み等のための予算が承認されたことが認められる。)を決定し、翌月一〇日闘争委員会を開催し(成立に争ない乙第一号証の二により、右委員会において政府機関、米軍および組合による保安解雇についての三者会談の開催要求、同月一四日県知事に対する団体交渉の要求が決定されたことが認められる。)、次いで同月一四日県知事との保安解雇に関する交渉が行われたところ、その翌日の一五日門脇に対する出勤停止の措置がとられたことが認められ、結局門脇に対する出勤停止は、同人が全駐労鳥取地方本部の執行委員長として、前記三次にわたる保安上の措置に対する活溌な組合活動を行つている最中に行われたことになる。

(二)  この点について、原告は、門脇志郎は同年五月四日の第一次出勤停止と同時に保安解雇の予定者であることが確定していたので、同日以降の門脇の組合活動は、同人の解雇理由とは関係があり得ないと主張する。

しかしながら、成立に争ない甲第二号証によれば、昭和二九年五月四日当時門脇がO・S・Iの調査と監視の下にあつたこと、門脇の出勤停止は、彼についてより十分な調査をするため数日おくれたこと、その事情は、基地当局が組合長の出勤停止は重大な行為であると認めたので、更に門脇についてより以上の調査を要求したことによるものであることが認められるので、門脇が出勤停止となつた六月一五日より数日前にO・S・Iの調査としては、一応門脇を出勤停止にすべきものとの判断が出たが、基地当局としての意見が確定したのは矢張六月一五日頃と認めるのが相当である。

なお、証人長谷川功は、同年五月四日基地労務士官より大物の保安解雇を予定しいる旨聞知したと証言している(成立に争ない乙第一号証の一一中証人長谷川功の供述録取部分も同趣旨である。)が、右にいう大物が何人なのか明白でなく、かつ、その者の解雇が確定しているかどうかも不明なのであるから、かかる片言だけで門脇の解雇が当時確定していたと認めるわけにはゆかない。その他右認定を覆すに足りる証拠はない。

従つて、門脇の昭和二九年五月四日以降の組合活動は同人の出勤停止と関係があり得ないと認めることはできない。

四  解雇理由の不存在

原告は、門脇が附属協定第六九号第一条A項第三号に該当し同協定に基き出勤停止ないし解雇となつたものであると主張するので、同人にかかる事情があるかどうかを見ると、原告は、この点について解雇の理由となるべき門脇の具体的該当事実については何等主張、立証するところがないばかりでなく、成立に争ない乙第一号証の三(鳥取県知事の答弁書と証人山根虎雄の証言によれば、県は、門脇について調査を行つたが、県の調査の限度においては、門脇に保安基準に該当する事実を発見することができなかつたことが認められ、また原本の存在とその成立に争ない甲第一号証中同県知事の美保航空基地司令官に対する書簡によれば、同知事は、昭和二九年五月四日以降一七名の日本人労務者が出勤停止を受けた際、鳥取県民は、一般に思想的には全国的に見て醇朴、温健といわれているにもかかわらず、保安基準該当者を全国一出したことは聊か諒解に苦しむところであるとの見解を披瀝しているところから見ると、原告主張のように附属協定第六九号に定められた日本政府機関の意見、見解の提出、米軍との折衝ないし門脇の訴願等の手続によつても、同人に対する米軍の調査の結果を覆すことができなかつたことから、同人に保安基準に該当する事実があると推認することは相当でないと認むべきである。

従つて、門脇には出勤停止ないし解雇の理由となつた附属協定第六九号第一条A項第三号に該当する事実はなかつたし、また同人にかかる事実があると信ずるに足りる十分な事情も存しなかつたものといわなければならない。

五  不当労働行為の成立

(一)  以上認定の門脇の組合経歴、組合活動、同人に対する出勤停止のなされた状況等と同人には原告主張のような保安基準に該当する事実がないことを綜合して考えて見ると、門脇に対する出勤停止ないし解雇は、表面軍の保安を理由としているが、その実質上の理由は、同人の正当な組合活動にあるものと認めるのが相当であつて、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

すなわち、原本の存在とその成立に争ない甲第二号証(ブロンソン大佐作成の答弁資料)、成立に争ない甲第四号証(幕僚法務官の調達庁労務部長あて書簡)、乙第一号証の六(山根地方事務所長の口述書)、乙第一号証の九(鳥取県知事の口述書)、乙第一号証の一一中証人長谷川功の供述録取部分、乙第三号証の二(坂本調達庁労務部企画課長の証言録取書)、証人山根虎雄、同西尾邦太郎、同長谷川功の各証言には、門脇に対する出勤停止ないし解雇は、同人の個人的行為を理由とするもので同人の組合活動を理由とするものでないこと、または少くとも同人の組合活動を理由とするものでないと判断される趣旨の記録ないし供述があるが、それらは、いづれも首肯すべき根拠のない意見の開陳の域を出ないもので、いはば結論だけの証拠であつて、その結論の根拠となるべき門脇の保安基準に該当する具体的事実についての言及がないので、かかる証拠だけでは、前記認定を覆すに足りる証拠価値があるとは考えられない。

(二)  原告は本件のような保安解雇の場合には、解雇理由の不明示は、不当労働行為認定の資料となるべきものでないと主張する。

なる程、附属協定第六九号第一条C項(成立に争ない乙第一号証の三の附属書類参照)によれば、本件の如き保安解雇については、米軍は、保安上の必要があれば保安基準に該当する理由を日本側に通告するを要しないものと定められていることが認められるが、解雇要求の理由を明示する義務がないことは、これに伴う解雇理由の不明示についていかなる関係においても不利益を受けないことまで意味するものでないことは当然である。

一般に不当労働行為の有無の認定に際し、使用者が解雇の理由となるべき具体的事実を開示しない場合は、かかる事実を知る者は使用者以外にないという事の性質上、解雇理由に当る事実の不存在が推定され引いては使用者のいう解雇理由以外に真の解雇理由が存するのではないかという疑を受けてもやむを得ないというべきであり、かつ不当労働行為意思の存在は被解雇者が使用者に顕著な組合活動家であることによつて一応推定されるので、使用者はそのような不利益推定を打ち破るためにも首肯さるべき解雇理由の主張と立証を必要とするのである。しかるに駐留軍労務者の保安解雇の場合に限つて使用者の利益のため、かかる不利益が排除せらるべき何等の理由もない以上、門脇の解雇の具体的理由の不明確なことが不当労働行為認定の一資料となることは明白である。

また原告は、門脇の解雇理由として、附属協定第一条A項第三号に該当することが明示されている点において他の保安解雇者に比し解雇理由が具体的になつていると主張するが、門脇の右保安基準に該当する具体的事実を主張、立証しないかぎり、前記不利益を避けらるべきものでないことは当然である。

(三)  次に原告は、門脇が附属協定第六九号に定められた保安基準に該当するかどうかの判断は、米軍の主観的判断にゆだねられており、日本政府は、この軍の判断に拘束され、従つて、原告は、米軍により保安基準に該当すると認定された門脇に対して解雇手続をとるほかに途がないから、本件解雇は不当労働行為でないと主張する。

しかしながら、労務基本契約第七条、附属協定六九号(何れも成立に争ない乙第一号証の三附属書類参照)により、原告は少くとも保安解雇に関するかぎり、その解雇決定の権限を駐留軍にゆだねていることが認められるので、そのかぎりにおいては、駐留軍は、雇用主である原告の意思決定機関たる原告の意思決定機関たる地位にあるものというべく、従つて、駐留軍の不当労働行為意思に基き原告のなした労務者に対する不利益処遇は、すなわち原告の自らなした不当労働行為に外ならない。

六  以上認定のとおり門脇志郎に対して昭和二九年六月一五日なされた出勤停止、同年七月三〇日なされた解雇は何れも不当労働行為であるから、これに対する救済として鳥取県地方労働委員会が昭和三〇年五月四日発した原職復帰、賃金の遡及支払を内容とする救済命令は適法であり、従つて、この命令を維持し原告の再審査申立を棄却した被告委員会の命令ももとより適法である。

従つて、被告の右命令を違法として取消を求める原告の本訴請求は理由がないから、これを失当として棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 西川美数 大塚正夫 好美清光)

(別紙)

命令書

再審査申立人 鳥取県知事

再審査被申立人 全駐留軍労働組合鳥取地区本部

右当事者間の中労委昭和三十年不再第十一号不当労働行為再審査申立事件につき、当委員会は昭和三十年十一月三十日第二百四十三回公益委員会議において、会長、公益委員中山伊知郎、公益委員細川潤一郎、同藤林敬三、同吾妻光俊、同小林直人、同中島徹三、同佐佐木良一出席し、合議のうえ左のとおり命令する。

主文

本件再審査申立を棄却する。

理由

一、再審査被申立人全駐留軍労働組合鳥取地区本部の組合員である門脇志郎は、昭和二十一年九月二十五日鳥取県所在の英連邦軍美保航空基地に進駐軍労務者として勤務し同二十三年四月十七日英連邦軍の撤退により一時休職となつたが同年五月二十七日再び同基地に米軍労務者として勤務し、昭和二十九年六月十五日本件保安による出勤停止を命ぜられるに至るまで、充電工、人夫監督、消防士等として右基地に継続勤務していたものであつて、再審査申立人鳥取県知事により雇用される、所謂「駐留軍労務者」であつた。

その間門脇志郎は、昭和二十二年二月十一日美保進駐留労働組合(全進同盟に加入)が創立されるや同組合に加入し、同二十三年三月右美保労組の組合長兼進駐軍労働組合鳥取県連合会長となり、二十四年二月には右副組合長、同二五年辞任し代議員となつたが、更に二十六年及び二十七年の二期に亘つて再び副組合長を勤め、二十八年四月全駐留軍労働組合鳥取地区本部執行委員長となり、二十九年五月執行委員長に再選された。

昭和二十八年七月の全国臨時大会決定に基く日米労務基本契約改訂に対する全駐労のゼネストに際し、右地区本部も門脇委員長指導のもとに二十四時間ストライキを実施したが、このストに反対して参加を拒否し、ピケットを破つた執行部役員須永芳朗他六名を除名したところ須永を委員長として第二組合(後に関西駐留軍労働組合に加盟)が結成され地区本部は分裂するに至つた。

次いで二十六日第二波ストライキの中央指令があつたところ、美保航空基地OSIのテレフォード隊長は門脇委員長に対しストライキ中止を勧告したが門脇はこれを拒絶した。

二、翌昭和二十九年五月始め頃地区本部定期大会において不当解雇反対の闘争方針が決議され、同月四日には美保航空基地において米軍から、九名(うち一名直接雇用)の日本人労務者が保安上の理由による出勤停止を受けた。門脇委員長は県側職員等と共に基地労務士官シヤックリー中尉、更にOSI隊長にその具体的理由の説明を求めたが得られなかつた。

同月十四日から十六日まで中央において全駐労の全国大会が開催され、門脇委員長もこれに出席したがその際保安解雇に関係ある各地区本部支部の協議会が持たれ、空軍関係、特に鳥取地区に保安解雇の多いことが確認され、門脇が地区本部に帰るや直ちに地区本部委員会を開催し闘争委員会の設置が決議された。

同月二十一日、美保基地において米軍から更に五名の日本人労務者が保安上の理由による出勤停止を受け、門脇委員長は直ちに保安処分の多すぎる旨を前回の処分が行われたときと同様シヤックリー中尉及びOSI隊長に申入れた。

同月二十八日又も四名の日本人労務者に対し保安出勤停止が行われたので、翌二十九日緊急地区本部委員会を開催し保安解雇についての闘争方針を決定、翌六月十日闘争委員会を開催、同月十四日知事交渉を行うに至つた。

三、右のような情勢の下において、昭和二十九年六月十五日、午後、突然、門脇委員長は電話によりジョンソン労務士官のもとに呼出され、日米労務基本契約附属協定第六十九号の「保安協定」第一条a項第三号「前記(1)号(作業防害行為、諜報軍機保護のための規則違反又はそのための企図若しくは準備をなすこと)記載の活動に従事する者又は前記(2)(A側の保安に直接有害であると認められる政策を継続的に且つ反覆的に採用し若しくは支持する破壊的団体又は会の構成員たること)記載の団体若しくは会の構成員とA側の保安上の利益に反して行動をなすとの結論を正当ならしめる程度まで常習的に或は密接に連繁すること」に該当するものとして出勤停止を言渡された。その際ジョンソン労務士官は具体的な理由は話せないがセキュリティーに該当する人と密接な関係をもつことが保安に該当する事由になり得る旨の説明をなし、基地から退去するよう命じた。その後七月三十日に至り、県西部地方事務所長による「業務上の都合による」解雇通知が門脇に対しなされた。

四、本件解雇は日米労務基本契約附属協定第六十九号に基きその手続に従つてなされた。即ち、昭和二十九年六月十五日門脇に対する保安による出勤停止要求がなされた後、再審査申立人知事を含む日本国側と米軍側との折衝が行われたが、美保航空基地指揮官は、門脇の出勤停止理由につき同人が附属協定第六十九号第一条a項第三号二節に該当すると示したのみであつたので知事側は、その具体的事実を知らないまま自ら調査しその結果に基き門脇が保安基準に該当しない旨の意見書を米軍側に提出したが、これに対し軍は確実な調査に基づき該当事実を把握し米軍の保安上危険ありとして出勤停止要求を行つたと言明したのみであつた。美保航空基地ウェイト司令官及びテレフォードOSI隊長を含む現地軍当局と知事側との交渉も数次に亘り行われ、更に調達庁長官と米極東軍司令部担当者との協議も行われたが、その間七月十五日に至り軍側は保安による解雇措置をとることを要求、結局保安上の理由の具体的内容は遂に明らかとされないまま、同年七月三十日本件解雇に至つたものである。なお、門脇は附属協定第六十九号第六条に基いて訴願書を提出したが、それも却下された。

五、前記認定のとおり、門脇は、昭和二十二年二月美保進駐軍労働組合創立以来の組合員であり、昭和二十三年三月右組合長兼進駐軍労働組合鳥取県連合会長となつた後、鳥取県における駐留軍労務者の労働組合運動の指導的人物として組合活動を行つてきたものである。しかして本件解雇は、昭和二十九年五月四日以降二十八日に至る間三次にわたつて行われた軍による日本人労務者に対する保安出勤停止に対し、本人が執行委員長たる地区本部自ら調査に当ると共に、日本側関係機関にも調査を依頼し、該当事実の認められないものについては反対闘争をなす方針を決定し、軍及び県に対して積極的に交渉を行つていた最中の、同年六月十五日に、先ず保安出勤停止の措置がとられ、ついで同年七月三十日に行われたものであり、その理由とするところは、前記の如く、附属協定第六十九号第一条a項第三号に該当するというのである。

再審査申立人は、附属協定第六十九号第一条c項に規定する「保安の許す限り」とは、第一条a項の各号中の何れかに該当すると示せば足りる趣旨であると主張するが単に該当条文を示すのみをもつて、保安上の解雇か否かを判断する何らかの根拠が示されたものとすることは不可能であるから、この主張はとりえない。

また、再審査申立人は、軍は、保安上の理由こそ明示しないが、門脇の個人的行動を把握して出勤停止を行つたのであつて、その具体的事実の輪廓は、門脇に出勤停止の申渡をした際にジョンソン労務士官から或る程度明らかにされていると主張するがジョンソン労務士官の説明というのは「他の人々の場合と同様に附属協定第六十九号によるとしか言えない」といつた後で、説明的に机上に円を抽き「軍がセキュリテイーと認めている者と交渉をもつことも、やはりセキュリテイーに該当する」といい、さらにその周囲を指したというほどのことであつて、このような抽象的説明をもつて保安理由を推知せしめるに足る何らかの説明がなされたと判断することはできない。

駐留軍の保安上の理由による解雇については労働委員会としては、保安上の理由の当否についてまで判断する要なく、ただ解雇がそれに藉口された不当労働行為でないか否かを判断すれば足りることは、すでに当委員会の判断として示されているところであるが(中労委昭和二十八年不再十三、十四号事件命令)再審査申立人の疎明が以上の如くである限り、それは、本件解雇が保安上の理由に藉口したものではないと判断すべき事実の説明はおろか、そのための何らかの手懸りさえも与えられたとはいえない。

ひるがえつて、前示の如き門脇の数年にわたる組合活動及びまさに大量の保安解雇に対する交渉の最中に地区本部の最高責任者たる執行委員長の門脇を突如保安上の理由によるとして出勤停止した経緯に鑑みると、本件解雇はまさに門脇の正当なる組合活動を理由とする解雇であり、保安上の理由はこの解雇を正当化するためにとられた口実にすぎぬと断ぜざるをえないのである。

六、なお、再審査申立人は、門脇の解雇は、附属協定第六十九号による正式手続を経て慎重な検討の末最終段階の処置までとつてなされたものであるから、この点からしても保安上の理由に藉口するものでないというが、このような手続の履践は、協定により定められたところにより、なさるべきものがなされたにすぎず、単にこれだけをもつて、解雇を正当化し、不当労働行為でなかつたとする根拠となすことはできない。

七、以上のとおり結局本件門脇に対する解雇は、同人が労働組合の最高責任者として、活溌な組合活動をなしたことを理由とするものと認められ、本件再審査申立は理由がなく、初審命令は相当であるので労働組合法第二十五条、第二十七条、中央労働委員会規則第五十五条により主文のとおり命令する。

昭和三十年十一月三十日

中央労働委員会 会長 中山伊知郎

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